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SHAPER INTERVIEW

【INTERVIEW #1】佐久間洋司〈バーチャル・ビーイングから「人類の調和」へ〉

バーチャル・ビーイングと2025年大阪・関西万博

——自己紹介をお願いします。

大阪大学 グローバルイニシアティブ機構の招へい研究員として、2025年大阪・関西万博と大阪大学の連携などに携わっています。この万博については、大阪府市が出展する大阪パビリオンのディレクターなどを務めています。都市連動型メタバースのバーチャル大阪の監修もしていて、大阪を基軸に色々なプロジェクトに参加しています。
ただ、現役の学生でもあって、東京大学大学院総合文化研究科の修士課程に在学しています。指導教員は人工生命や複雑系科学が専門の池上高志先生です。バーチャルな身体をアバターとしてもエージェントとしても活用する「バーチャル・ビーイング」の研究に取り組んでいます。学部時代は大阪大学の石黒浩先生の指導も受けていました。
ユーザが操作するアバターの特徴が自分の心理や行動にも影響するというプロテウス効果を発展させて、特定の相手の身体を没入型バーチャルリアリティで操作してロールプレイすることで、パーソナリティが近づいたり意見が同調したりするという研究をしていました。

——プロテウス効果についてもう少し教えてください。

白人が黒人のアバターを操作すると黒人に対する偏見が軽減したという研究や、子供のアバターを操作するとものを持ち上げた時に重く感じるという研究などが有名です。それを特定の相手に試してみるという私の研究のアイデアは、新海誠監督の映画『君の名は。』のイメージかもしれません。大学院では自律的に振る舞う生命や生命性の原理をテーマにしている研究室に所属しているので、自律的なエージェントしてのバーチャルな身体についても研究しています。自分とバーチャルな身体とでどちらがより説得力を発揮できるのか、そこにどのような違いがあるのか、振る舞いを学習させることはできるのかなども研究しています。

——仕事や活動の内容を教えてください。

大阪・関⻄万博については、大阪パビリオン全体が「未来の都市生活」をテーマにしているので、自分の担当部分では未来のバーチャル・ビーイングをテーマにする予定です。いくつかのコンテンツを検討しており、自分自身を知ることや誰かを知ることを支援するエンターテイメントコンテンツを準備しています。

ひとつ目は新しいバーチャルなアバターのコンテンツです。日本は海外と違って、現実の見た目とは違うアバターや匿名性の高い名前を使う傾向があります。細田守監督によるアニメ映画『竜とそばかすの姫』にもその価値観が表れていますよね。このコンテンツでは、REALITYという日本のアバターデザインアプリの荒木英士社長にアドバイザーに入っていただいていて、今まで気がついていなかった自分の内面に、日本らしいアバターデザインやそれを通じた体験を通じて気がつくことができるようにしたいです。

ふたつ目は、音楽と物語を通じて誰かを理解することを目指したコンテンツです。まだ私たち一人一人が持っていない新しい価値観、多様な価値観を表現した音楽とミュージックビデオを提供したいと思っています。それらの音楽に加えて、その物語が3DCGモデリングされた空間へ没入的にアクセスすることなどによって、新しい視点を持って万博を後にしてもらえたらと思っています。KAMITSUBAKI STUDIOという、バーチャルシンガーのプロデュースをしている方々のアドバイスもいただいて企画を進めています。

——佐久間さんは、物語が持つ力に可能性を感じているんですね。

そうですね。自分自身の内面を知ること、まだ見ぬ誰かの想いを知ることなどを、エンターテイメント性の高いコンテンツを通じて提供していきたいです。実際、どれだけ意味のあるメッセージでも、長いテキストやドキュメンタリーの形式だけでは若い人に訴求しにくいのではないかと危機感を持っています。東日本大震災を数十万人の若者に強く思い出させることができたのは、テレビ番組でも専門書でもなく、新海誠監督の『すずめの戸締り』だったのではないでしょうか。

学生でも活躍できるGSCという場

——GSCに入ったきっかけや期待していたことを教えてください。

Global Shapers Community(GSC)に入ったときは大阪ハブに知り合いもおらず、最初はYoung Global Leaders という上位組織の船橋力さんに推薦いただきました。船橋さんはトビタテ!留学JAPANという官民協働の留学支援プロジェクトのディレクターでした。トビタテの支援でトロント大学での1年間の交換留学などを経験したのですが、成果報告会での受賞を通じてGSCに参加するきっかけをいただきました。時間が経って、今では一番所属が長いシェイパーになりました。
自分が入る前年に落合陽一先生が東京ハブに参加されていたり、スプツニ子!先生がGSCやYGLに参加されていたりしたので、そういった方々が所属しているコミュニティでのつながりを深めたいと期待していました。

——実際にはどんな経験が得られましたか?

最初のころにNEXT DAY 2019というシンポジウムを開催させていただきました。毎年開催していた教育に関するシンポジウムを私が担当することになって、人工知能によって変わっていく世界と教育のあり方をテーマに実施しました。先ほどお話した船橋さんや人気YouTuberのはなおさん、テクノロジーにも非常に詳しいアーティストの草野絵美さん、AI時代の経済やベーシックインカムに詳しい経済学者の井上智洋先生に登壇いただきました。まだ学部生だったときにこのようなイベントができたのはGSCがあったからこそだと思います。
その後、現任キュレーターの鶴羽さんや小林さんの前の年にキュレーターを務めました。任期中は大阪ハブの公式ウェブサイトの刷新をしたり、大阪ハブの活動指針であるステートメントの策定を進めさせていただけて、とても有意義な経験でした。

現代だからこそ目指す「人類の調和」

——色々なことにチャレンジされていますが、お仕事の将来のビジョンを教えてください。

将来の私たちがもう少しだけ分かり合える未来に近づいていきたいと思っています。個人の幸福と集団の幸福が両立する、調和した未来のために何ができるか考えていきたいです。現代は個人の責任や権利にすごく寄りかかっている時代だと感じていますが、だからといって集団としての幸福を目指すというと途端に全体主義みたいにも聞こえてしまいます。果たして、その間をとることはできるのか。たくさんの哲学者や社会学者が考えてきた社会モデルがありますが、インターネットや人工知能、現代の先端技術を活用すれば技術がそれらのビジョンを下支えして、更新こともできるのかもしれないですよね。

——ビジョンを達成するため、具体的にどのようなことを実践されてきましたか?

ムーンショット型研究開発事業に新しい研究開発目標を追加する調査研究に採択いただき、チームリーダーを務めた経験があります。その際はまさに「人類の調和」というテーマで、調和した未来社会のモデルや、そこに至るための科学技術のアイデアや研究開発の整理をしました。今後は調和する未来のあり方と、そこへ至るためのステップを明確かつ説得力をもって提示したいです。

——GSCを通じて今後やりたいことを教えてください。

ムーンショットや万博での経験や知識を大阪ハブに重なるように還元したいと思っています。実際に、大阪・関西万博とGlobal Shapersのコラボプロジェクトを推進しています。大阪・関西万博では2040年の未来社会の提示も目指しているので、今後の科学技術と医療の発展を調べるチームと、SDGs以降の世界の課題を明らかにするチームに分かれて調査に取り組みます。万博に向けてGSCから提示できる未来社会のあり方とそこへ至るための課題を整理し、レポートとしてまとめるプロジェクトです。実際、新型コロナウイルスやウクライナ侵攻は、ゆるやかに平時を想定していたSDGsの限界を提示しているのかもしれません。私自身は調和に興味がありますが、国内外のシェイパーの一人一人が持っている課題意識や知識を持ち寄りながら検討ができればと思っています。

——最後に、シェイパーになりたい方へメッセージをお願いします。

現在は様々なプロジェクトに関わらせていただいていますが、GSCに入ったときはまだ学部生でした。GSCに関わっていく過程を通じて成長してきた感覚もあるので、すでに十分な実績がある方はもちろんですが、これから頑張りたい学生や若手の方もぜひ大阪ハブに関わっていただけたら嬉しいです。

○佐久間洋司(大阪大学グローバルイニシアティブ機構招へい研究員、東京大学大学院総合文化研究科修士課程、2025年日本国際博覧会大阪パビリオン推進委員会ディレクター)

2022.12.10
TEXT BY 蒲生由紀子